『その02:「最強の名の元に、野球拳レディー・ゴーッ!!」(ガルース)』
作:鬼 団六

 「ならば、ワシの代わりに、コイツが脱ぐ所存ナリィ!!」
 …サンムラーが、俺を指差しているな。…ん? 俺を!?
 「……俺?」
 おいおい、なんで俺がユウキと野球拳なんかしなきゃならんのよ、サンムラー。
 「然り!! ワシの代わりに、最強の心の友が相手をいたす!!」
 最強の…心の…友……?
 「よっしゃ! 最強の名の元に……俺が、勝つ!!」
 俺は右手の拳を握り締め、天高く突き上げた! …くぅ、かっこいいなぁ……俺!!

 「…ャンケン、ポン!」
 …ユウキが俺に、手のひらを見せつけている……なぜだ?
 「はい、ガルース、一回負けね。」
 おいおい、レイナ。お前何を言っているんだ? 最強の俺が負けるワケないじゃないか。
 そう! それが例えジャンケンだとしても!!

 ……ん? ジャンケン?

 『し、しまった!!』

 俺は思わず叫んでいたね。ただ、それとサンムラーの叫び声がシンクロした事は、俺を『やや不愉快』にさせたね。
 「さ、ガルース、とっとと脱ぎなさい。」
 「わーってるよッ!!」
 ファリムに急かされながら、俺は上着を脱ぎ捨てた。
 「不意打ちとは、卑怯千万じゃ! 審判長、ワシは競技のやり直しを提案します!」
 サンムラーが審判長、まぁ、早い話がレイナに、詰め寄る。
 「却下します。」
 あっさりと拒絶されたな。まあ良いさ。一枚くらいはハンデだ、くれてやる!

 「ガルース君、ごめんね。」
 ユウキが申し訳なさそうに言ってくる。……フッ、甘い! 甘すぎる!!
 戦の最中に相手を気遣っていては、勝てるものも勝てなくなるぞ、ユウキ!!
 「気にするな! なぜならば、俺が最強だからだ! さあ、次だ、次ッ!!」
 俺は早くも、さっきの不覚を忘れ、次を考え始めていた。
 「許してくれるの? ありがとう! …じゃあ、握手しよ。」
 握手? おいおい、何を言ってるんだ、ユウキ?
 「お互い、正々堂々戦おうね。」
 と、ユウキは右手を差し出してきた。…利き腕での握手か…、悪くないな。
 俺は、握手に応えるため、右手をユウキに差し出そうとした。そして……
 「よし、お互いに正々堂々……」
 その、俺の言葉を遮るように、ユウキの声が響いた。
 「ジャンケン・ポン!」

 ………な、なんだとぅッ!?
 「はい、ガルース、二回目の負け。」
 レイナの声がし、ユウキの右の手は、見事な「チョキ」……

 『し、しまった!!』

 俺はまた、思わず叫んでいたね。ただ、再びサンムラーの叫び声とシンクロした事は、俺を『かなり不愉快』にさせたね。
 「ガルースってば、後出しで負けてやんの♪」
 「うるせーっ!!」
 …ファリムのヤツめ、盆と正月が、クリスマスに来たような笑顔をしおって……
 「物言いじゃ! 審判長、今のは、立会いが不充分ではありますまいか!?」
 「却下します。」
 …少しは役に立ってくれ、サンムラーよ……
 「クッ…、次はこうはいかんぞ!」
 上半身ハダカになった俺の台詞が、これだ。…なんか悪役みたくなったなぁ、俺。
 …なんて事を考えつつ、何気なくユウキを見てみると……
 「ウフフフ……」
 やばいッ!! ユウキが自己防衛モードに入ってる! って言うか「裏」!?

 「ユウキの自己防衛モード」とは、何か? 呼んで字の通りだ。
 正確には「ユウキが著しく身の危険を感じた時に発動する、一種のトランス状態」という言い方ができる。
 通称が「裏・ユウキ」!!
 通常のユウキ(以下「表」)との大きな違いは、「手段を選ばないこと」が挙げられる。
 しかも、その方法が、残忍極まりない! 元々高いスペックをもっている頭脳が、 「いかにして、自分を守るか」だけに使われるのである! そこには、他者への労り、気遣い、慈悲など、一切無用ッ!!
 ちなみに、「裏」の間の記憶は「表」は覚えていないようである。
 さて、「裏」が発動したかどうかの見分け方であるが、ユウキの眼鏡を見れば一目瞭然だ。
 無色透明で、正面から彼女の瞳が見える時は「表」。
 不自然に光を反射し、どの角度から見ても瞳が見えない場合は「裏」である!
 あと、約七割の確率で、「裏」発動直前に「みゃ〜う」と鳴くというデータもある!!
 以上、ユウキに関する俺的解説!


 っていうか、やばい…… この状態のユウキと勝負してる俺ってば、かなりの勇者だぞ。
 しかし、最強の俺が逃げるわけにもいかないしなぁ…… どうする、俺!?
 「さぁ、ユウキ! ヤツのズボンも、サクッと剥いてしまいなさぁい!!」
 ファリムめ…、更にイキイキした表情になってやがる…… だが、ここでヤツに構っている暇はない!
 俺の敵は、裏ユウキ、ただ一人!! 今なら、不意打ちも可能!
 いくぜ、渾身の力を込め、万感の思いを今ッ!!

 「先手必勝!! ジャーンケーン…」
 …と俺が気合の一声を上げた時……
 「まてまてぇい! 野球拳ソングを歌わんかぁ!!」
 サンムラー… お前、ヒトのやる気を削ぐ才能だけは一人前だな!!
 「…野球拳ソング?」
 「そうじゃ、審判長! 野球拳を野球拳たらしめているもの、それが野球拳ソングなのじゃ! コレをないがしろにすることは、鬼畜にも劣る所業!! いやさ、悪鬼の如し!!」
 「…どんな歌なの?」
 そうそう、それは気になるぞ、レイナ!! よく言った!!
 「こんな歌じゃ!」
 サンムラーは、得意げにその喉を披露し始めた。

 「あそ〜れ! ♪や〜きゅう〜ぅ、すぅるなら〜♪ こぉいぅぐぅあいに、しぃ〜やさんせぇ〜♪」

 おおぅ!? 振りまでついているのか!? こりゃあ、俺もウカウカしてらんねぇぞ!
 最強の名にかけて、絶対にマスターしてみせる!!
 「却下します。」

 『Oh NO!!』

 なんてこったぁ!! 予想していたコトとはいえ、あまりにも迅速な判断だゼ、審判長!!
 …って言うか、またまたサンムラーの叫び声とシンクロした事は、俺に『軽い殺意』を覚えさせたね。
 しかし、こんなコトに動じている暇は無い! 態勢を整えねば!!

 「さぁて、じゃあ次は、『チョキ』を出そっかなぁ。」
 くぅッ! やるな、裏ユウキ!! このタイミングで心理戦を挑んでくるとは!
 「ガルース! 相手はチョキじゃあ!! グーじゃ、グーを出せぇい!!」
 うっさい、サンムラー!! そんくらい、わかってる!!
 「ガルース君、チョキと見せかけて、パーでくるかもよ。」
 それも了解ずみだ、オイール! ……って言うか、こいつらは俺をハメようとしてんじゃなかろうか?
 迷いが俺の脳細胞を占拠していくじゃないかッ!

 ……さて、どうする? 素直にチョキと見るか、裏をかいてパーが来るとみるか……
 いや、待て!! 裏の裏ってこともあり得るハナシじゃねぇか!
 …ふう、危ねぇ危ねぇ…… 拳で額の汗を拭いながら、俺は冷静さを取り戻していた。
 裏の裏で、『グー』が来る可能性を忘れていたゼ。……フフフ、裏ユウキ、恐るるに足らずッ!!
 裏の裏まで読みきったこの俺が、最強だ!

 『ジャーンケーン、ポンッ!!』
 二人の声が見事にシンクロし、互いの手が面前に晒される……
 俺は熟考の末、導き出した『裏の裏でグー』に勝つための「パー」を選択していた。
 そして、完璧なまでの自分の思考に酔っていた。しかし…
 「チ、チョキだとぅ!?」
 ユウキの出してきていたのは、予告どおりの『チョキ』……俺、しばし呆然。
 「裏の裏の、ウ・ラ♪」
 ユウキの口元に、微笑が浮かんだ……

 『し、しまった!!』

 俺は三度、叫んでいたね。
 ただ、サンムラーの叫び声とシンクロした事は、俺を『かなり追い詰めた』ね。もう、殺るしかねぇ。
 「ガルース♪」
 …ちくしょう、今までに見たことないような『深みのある表情』で、俺を小馬鹿にしおって……
 覚えてろ、ファリム!!

 「審判長!! 今の勝負は……」
 「何?」
 「……何でもありまっしぇん……」

 …そりゃあ、今の勝負は完敗だけどさぁ…… 一応、物言いとかつけろや! テンションが下がるわぁ!!
 「くぅッ!! これで勝ったと思うなよッ!!」
 自分で言っといて何だが……、俺、悪役そのものじゃん。しかも、パンツ一丁だし。
 「いえーい、サンムラーとガルースで、パンツ一丁ブラザーズだぁ!!」
 …真剣に、悔しいゾ!! あのとんがり耳め…、いつかシメる!
 「おおぅ! ならばワシが、『力の壱号』じゃあ!!」
 何ッ!? サンムラーが…力の壱号!? ならば、俺のとる道はただひとォつ!!
 「よっしゃあッ!! そんじゃあ、俺が『技の弐号』だぁ!!」
 二人で、息のあったポーズをきめる! ……うわっ、俺、かっこいいじゃん!!
 「お前ら、さっきから、うるせーんだYo!!」
 …俺とサンムラーが、悦に入っている時だった。そんな変な語尾の罵声が聞こえてきたのは……


〜 つづきを読む 〜
〜 目次へ戻る 〜




作品へのご意見やご感想は、 BBSからどうぞ♪

ADIA-TOPへ戻る
TOPへ戻る


inserted by FC2 system