『その1:「ふぇ〜ん、私が何をしたって言うんですかぁ!?」(ユウキ)』
作:鬼 団六

 ポキンの夜は長く、そして華やかである……と、人は言います。
 確かに、大きな街ですし、沢山の人達が生活をしていますし、それに負けないくらい沢山の旅人たちも滞在していますから、 当然の権利のように、歓楽街も大変に賑わいを見せています。
 だからこそ、そんな言葉も自然と生まれるのでしょう。
 街の中心からやや離れた所にある、酒場を兼ねた宿屋『ほうほうの亭』も、例外ではありませんでした。
 活気に溢れたその宿で、私、ユウキ・メリウェザーを含めた六人組は、夕食なんかを食べている最中なのです。

 さて、突然ですが、私達は冒険者です。
 「冒険者」と言うと、世界を股にかける「勇猛果敢な人達」。
 西に「豪華な財宝」あれば行って「洞窟に潜り」、東に「凶悪なモンスター」あれば行って「なます切り」にしてしまう……
 皆さんはひょっとすると、そんなイメージを持ってるかもしれません。
 ……ホントに、ごめんなさい!
 ……先に謝っておきます。
 少なくとも、私達(もちろん私を含め)は、そんな上等なモノじゃありません。
 あんまり冒険してないです、最近。
 …いや、私が仲間に入れてもらってからは、2〜3回しか無いんじゃないかなぁ…
 …はっきり言って、ただの「流浪の民なのでは?」と思う事が、しばしばあります。
 まぁ、流浪の民とまではいかなくても、ちょっぴり変な集団には、見えると思います…
 大体、私達のリーダーのサンムラーさんからして、何かと言うと、上半身ハダカになりたがるし…
 …って言うか、実際に脱ぐし。
 で、それだけならまだしも、周囲の人達にそれを見せつけるのです。
 確かに、鍛え上げられた肉体とも言えなくはないんですが……
 別に私はそういうのが趣味ではないんで、ちょっとイヤです。

 …という事を考えていたら、またサンムラーさんが脱いでます……
 「ぬおぉぉッ!! ワシを、穴のあくほど見てくれぃッ!」
 だからぁ、筋肉を強調するポーズをとらないでぇ……
 「どうじゃ! この腹直筋のキレは!!」
 キレって何ですか、キレって!?…うう、なんか満足気な笑顔でこっち見てるし…
 「ユウキぃ!! どうじゃあ、今日の肉体美は!!」
 「き、今日の肉体美!?」
 ええ、そりゃあ声も裏返りますよ。
 「むぅ、ワシは、昨日のワシよりも、今日のワシの方がキレとると思うんじゃ!」
 ……わ、わからないです。それは全然わからないです。…と、私が狼狽していると、
 「ユウキ、わかんないなら、わかんないってスパっと言ってやんな。」
 声の主は、私の右隣に座っている、レイナ・マレイナさんでした。

 レイナさんは、優しくて、美人で、私なんかとは出来が違う人です。落ち着いた物腰が、大人の女性を感じさせるのです。
 あ、あんまり大人大人言うと怒られるかもしれない…
 レイナさんの年齢のハナシだけはしてはいけない、という「鉄の掟」があるのです。
 …ま、それはともかく。レイナさんは私の理想の女性像であることは確かなのです。
 ああ、いつか私もレイナさんみたいな、素敵な女性になりたいなぁ……

 と、現実逃避をしてみたものの……
 「黙りんしゃい、レイナぁ! ユウキはわかってる! ワシの筋肉とユウキの筋肉が、呼び合ってるんじゃあ!!」
 絶対に、そんな事はないです!
 「…えっと、その、わからない、です……」
 サンムラーさんを傷つけないよう(これ以上刺激しないように、とも言います)慎重に言葉を選んだつもりでしたが…
 私の言葉を聞いたサンムラーさんは…
 「そぎゃんコツはなかぁ! ユウキ、ワシと野球拳で勝負じゃあ!!」
 言っている事も謎なんですが…… なぜ、ズボンを脱ぎ捨てるのですか? なぜ、ポーズをとるのですか?
 「ちょっと、サンムラー! 野球拳って何よ、ヤキューケンって!?」
 やっぱりレイナさんも、かなりのあきれ顔です。
 「チューコクの伝統的な遊戯じゃ。ジャンケンに負けた方が、一枚ずつ服を脱いでいくのじゃあ!!」
 な、なんて事を言い出すんですか、この人は!?
 「服を脱ぐ? で、それって最終的にはどう決着がつくの?」
 レイナさん、興味を持たないでください… やるのは私なんですから……
 「もちろん、全裸になった方の負けじゃあ!!」
 力強く言いきるサンムラーさん。でも言っている内容は、かなりアタマ弱いです。
 「じゃあ、アンタ、すっごい不利じゃん。」
 レイナさんが、サンムラーさんを指差して言いました。……あ、そっか。
 「な、なんだとぅ!?」
 フフフ… サンムラーさんは、まだ気がついてないです。
 「アンタ、パンツ一丁じゃない。いきなり背水の陣よ。」
 レイナさんは可笑しくて可笑しくて、たまらない様子です。私だってそうですから。
 「な、なんてこったぁ!!」
 その場にガックリしゃがみこむサンムラーさん。…ちょっと、気の毒かも……

 「あれれー、またサンムラーへこまして遊んでたのぉ?」
 あ、ファリムさん達が戻ってきました。
 「ナニナニ? この男が、今日は何しでかしたの?」
 うなだれているサンムラーさん(それでも結構大きいんですが)をヒョイっと跨いで、私の隣の席につくオイールさん。…足、長いなぁ……
 「そうしょげるな! 俺がいる限り、お前は最強だぁ!!」
 ガルーサッツ君です。(尤も、普段は愛称の「ガルース」で呼んでいますが。)
 この子は、相変わらず「勢いだけでモノを言っているフシ」があります…… あ、ちなみに彼だけが、私より年下なんです。…でも、一番年下なんて意識は彼にはないようで、私を含めた全員が、年上らしい扱いを受けたことは皆無です。
 …ま、みんなそんな事は望んでないんですケドね。

 「まったく、この筋肉バカは駄目ねぇ。こんなんでも一応は、アタシ達のリーダーなんだから、 もう少しくらいシャキッとしたってバチはあたんないわよ。 それがパンツ一丁で、ガックシへこんでんだからさぁ、パーティー組んでるアタシ達の対面ってヤツも考えてほしいモンだわ。」
 ……相変わらず、よく口が回りますね、ファリムさん。
 …って言うか、この人はどうしてこう、人を詰る言葉がポンポン出てくるのでしょうか? 私、エルフ族の人って、もっと静かなイメージ持っていたんですケド……この人を見ていると、私のエルフ像を訂正しなくては、という気持ちになります。
 「まぁまぁ、ファリムちゃんもその辺にしといてあげなさいって。アナタがいくら言ってやったって、そこのおバカさんは治りゃあしないんだから。」
 いや、オイールさん「そこのおバカさん」って、私達のリーダーですよ!?
 …って言うか、なんであなたは唇に「水色のルージュ」を塗っているのですか?
 で、なんでその唇に人指し指を軽く当てて、可愛らしいポーズをキメているのですか?

 「あの、オイールさん?」
 私は恐る恐る、聞いてみようと声を掛けました。だって、ルージュなんてついさっきまで引いてなかったじゃないですか。
 一体、オイールさんの身に何が……
 「もう、ユウキったら! わたいに「さん」なんて付けなくっていいのよ。」
 …いえ、そうでなくって。
 「あの、その唇……」
 「ああ、コレ? 新色よ、新色!」
 「え、新色?」
 「そうなのよ! さっき見つけたの! あんまり嬉しいから、すぐに引いてみたの!」
 うわぁ……、楽しそうだぁ……
 「さっすがユウキちゃんね! すぐに気づいてくれるなんて!」
 いえ、気づいた理由は他にあるんですが……
 「もう、わたい嬉しいわぁ! 嬉しいから抱きしめちゃおっと!」
 「え? ……キャアぁぁッ!!」
 だ、抱きつかないで下さいぃ! というか、なんでこの人は男性なのに、こんなに柔らかい感触がするんですか!?
 キィー、妬ましい!!
 「オイール、ユウキが困ってるわよ。」
 レ、レイナさん!? 正直、困ってるどころの騒ぎではないんですケド……
 「わかんないわよぅ、ユウキってば、いっつも困ったような顔してんだから。」
 フ、ファリムさん! あなた、何てことを言うんですか!?
 「ほ、本当に困ってるんですぅ! と言うか、オイールさん、く、苦しいです…」
 「あらあら、ごめんなさいねぇ。わたい、嬉しくってつい。」
 あー、やっと解放されました。…空気って、おいしい……
 「大丈夫? 本当にごめんなさいね、悪気はないのよ。」
 …ええ、それはわかっていますとも。
 「オイールの場合、悪気が無いってのが、タチ悪いのよ。」
 …ええ、私もそう思います、ファリムさん。
 「またまた、そんな憎まれ口叩いちゃってぇ。ファリムちゃんってば、可愛い!!」
 「ええい! アタシに寄るな、触るな、近づくなぁ!!」
 …あ、オイールさんとファリムさんが、追いかけっこを始めちゃいました。仲良しだよなあ、あの二人って。
 ……なんて事を考えながら、私が二人の追いかけっこを眺めていると、

 「ええい、立てぇ!! 最強の俺がついているんだ! 立てぇい、サンムラー!!」
 ガルース君が、サンムラーさんを立ち上がらせてます。…すっかり忘れてました。
 「ぬおおぅ! ガルース、お前だけが、心の友じゃああ!!」
 あ、サンムラーさんが元気になったみたいです。一安心、一安心と。
 「よし、ユウキ、野球拳で勝負じゃあッ!!」
 …って、安心じゃなーい!!!
 「ちょっと、サンムラー。さっきも言ったけど、アンタすっごく不利よ。一回負けたら「裸(ラ)」じゃない。」
 …あの、レイナさん? 私にとっては、不利とか有利とかいう話題はどうでもいいのですが……
 「心配ご無用!! ワシに、必勝のアイデアあり!! 略して「ワシ必勝的ア」!!」
 勝ち誇っているトコロ、恐縮ですが…アタマ弱過ぎです、サンムラーさん!!
 「…今から、服を着るのはナシよ。」
 いや、レイナさん? いくらなんでも、そんな方法ではないと思うんですが……
 「…………………………な、なぜ、それを!?」
 …図星なのですか!?

 「あれ、サンムラー元気になってんじゃん。」
 「ガルース君、何があったの? わたいに教えて。」
 あ、ファリムさんに、オイールさん。
 「サンムラーとユウキが、最強の座を掛けて勝負するのだ。」
 ち、違う! そうじゃないわよ、ガルース君!?
 「ふーん、そうなんだぁ。頑張ってネ、ユウキ。」
 ああ、どんどん外堀が埋められていくぅ。この時私の心に、意味はわからないのですが、「大阪夏の陣」という言葉が浮かんできました……
 いや、今ならまだ引き返せます! ハッキリと「そんな勝負しません」と言わないと!
 「No!」と言える日本人!……って、「ニホンジン」って何!?

 「あ、あの!!」
 「ならば、ワシの代わりに、コイツが脱ぐ所存ナリィ!!」
 無情にも私の言葉は遮られ、サンムラーさんがビシッと指差した先には……
 「……俺?」
 ポカンとした顔の、ガルース君がいたワケで……
 「みゃ〜う」
 どこかで猫が鳴いてたワケで……


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